グラム単位で装備を削り、地図とコンパスを睨みながら体力の限界まで山を駆け回る。OMM(オリジナル・マウンテン・マラソン)のようなシビアなレースに出たことがある人なら、あの独特の「カリカリした空気感」がわかると思います。
雨風に打たれながらナビゲーションを続けて、ようやくたどり着いたテント場。そこで僕らが最後に頼りにするのは、最新のハイテクギアでも、高価なエナジージェルでもなく、実は「ホッと一息つけるちょっとした余裕」だったりします。
今回は、そんな極限状態のテント場で、僕らの心にすっと余裕を作ってくれる、最高にニッチで愛すべきギアを紹介させてください。Nruc(ヌルク)がリリースした、たった11gのアルミ製小皿「FACEHUGGER DISH(フェイスハガーディッシュ)」です。
■目次
OMMとNruc。水と油を繋ぐ「11gのバグ?」

そもそも、「OMMのパッキングリスト」に「Nrucのギア」を入れる。この2つを結びつけて考えているヘッズって「めっちゃいる感じ」ではないかもしれません。

OMMが無駄を削ぎ落とすストイックな「競技」だとしたら、Nrucさんはむしろ無駄を愛し、山の寄り道を楽しむ「遊び心豊かな大人なブランド」なイメージなんですよね俺は..
本来なら交わることのなさそうな両者。しかし、このFACEHUGGER DISHは「11g」という絶妙な重さと機能美によって、カリカリのレースシーンにNrucの遊び心をシームレスに侵入させてしまう気がしました。このバグみたいな存在感こそが、このギアの本当のヤバさだと思っています。
OMMのテント場で感じる「食事」と「エサ」のちょっとした違い
OMMをサバイブするためのパッキングにおいて、食事はとにかく「軽量化」と「効率」が最優先されます。クッカーすら持たず、アルファ米の袋に直接お湯を注いで、自立しないフニャフニャの袋にスプーンを突っ込んでそのまま食べる。

あるいはジップロックに全部まとめておいて、ゴミも出さずに流し込む。それがUL(ウルトラライト)的な正解のひとつなのは間違いありません。
実際のレースではそうしている人はたくさんいますし、それはすごく合理的です。でも、冷たい雨の中で冷え切った手を擦り合わせながら、暗いテントの中で袋の底の米をかき集めていると、ふと「あれ、俺は今、食事をしているというより、ただカロリーというエサを摂取しているだけなんじゃないか?」と、少しだけ寂しい気持ちになる瞬間があります。

疲労困憊のときこそ、少しでいいから「人間らしい食事の時間」が欲しい。器によそって食べるという、普段なら当たり前の行為が、翌朝またスタートラインに立つためのモチベーションに繋がることを、僕らは現場のヒリヒリした空気の中で痛いほど実感しています。
だから僕はカリカリを辞めて「炭酸水と鴨肉を背負って」OMMに最近は出場しています。
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FACEHUGGER DISHが埋める「11ミリの隙間」というロマン


僕らみたいなギア好き(ヘッズたち)の間には、ある種の「スタッキング教」みたいなものがありますよね。限られたクッカーの容量の中に、いかに無駄なく、いかに美しくギアをパズルみたいに収めるか。あのテトリスがカチッとハマった瞬間の気持ちよさは格別です。


そんな中で、多くのハイカーが愛用しているのがwildo(ウィルドゥ)のフォールダーカップ。折りたためて軽くて、カップとして本当に優秀な定番ギアです。おれもOMMの時はこれ。
ただ、こいつをクッカーの底にスタッキングしようとすると、折りたたんだ底面のテーパード(斜めになっている部分)のせいで、どうしても「埋められない隙間」ができてしまうらしいんです。
FACEHUGGER DISHの生まれた理由は、笑っちゃうくらいシンプルで、そして異常なほどニッチです。「wildoの底の、あのわずかな隙間にピッタリとハマる皿が欲しい」。本当にただそれだけのために、この11gのアルミ板は作られたそうです。
俺、こんな隙間を気にしたこともなかったよ…….
名前の由来は、映画『エイリアン』に出てくる顔に張り付くヤツ、フェイスハガーです。その名の通り、wildoの底にピタリと張り付いて、パッキングの体積を1ミリも増やしません。
スタッキングの隙間を絶対に許さない僕らにとって、この「デッドスペースの完全消滅」は、もはやロマンと言っていいレベルでいいだろこれ!
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栃木の町工場と一緒に背負った、ガレージブランドの熱量


でも、このFACEHUGGER DISHを「よくあるノベルティの小皿」だと思ったら大間違いです。Nrucのnoteで開発の裏側が語られているんですが、そこにはガレージブランドの枠を飛び越えた、ものすごい熱量(とちょっとした無茶)がありました。
製造を一緒に手がけたのは、栃木県真岡市にある「佐野機工」さんという町工場。銅やアルミの加工に長けたプロフェッショナルたちです。この小さなアルミ皿を作るためには、専用の金型を起こす必要があったそう。
そして、金型代を回収して製品として世に出すためには、数千個という莫大なロットを作らなきゃいけなかったそうです。
たかが11gの小皿です。しかもwildoのカップを持っている人にしか完璧な恩恵がない、超絶ニッチなギア。そこに社運を賭けてるっぽい勢いで(note参照)大量生産に踏み切る。「誰も作らないなら、自分たちで作るしかない」。この愛すべき無茶苦茶さこそが、Nrucさんというブランドがみんなから熱狂的に支持される理由なんだと思います。
実際に出来上がってきた製品は、無垢のアルミの質感がすごく綺麗で、フチの巻き加工具合まで計算し尽くされた、間違いなく「本物のギア」です。ストイックなアルミ無垢も最高ですが、急遽やれそうであるということで生まれた「やかんゴールド(アルマイト加工)」の存在もたまりません。俺もこれ買いました。かつての実家のキッチンを思い出すようなあのゴールドが、カリカリのレースシーンにちょっとした抜け感と笑いを運んでくれます。


テント場での「11g」のリアルな働きっぷり


じゃあ、実際にOMMやファストパッキングの現場で、この11gの小皿がどう活躍するのか。
まず、テント場に着いてからの「乾杯の儀式」が変わります。お気に入りのトレイルミックスやちょっとしたおつまみを、ジップロックから直接つまむんじゃなくて、このFACEHUGGER DISHの上に「カチャッ」と音を立てて広げる。
ただそれだけのことなんですけど、「ジップロックとかのフタじゃなくて、自分専用の皿の上に食べ物がある」という視覚情報がくれる安心感は、疲れた身体にすごく染み渡ります。
それに、同行者とアルファ米のおかずをシェアするときや、行動食を配るとき。この皿があれば、相手に手のひらを出させたり気を使わせたりすることなく、スマートに取り分けができます。
温かいものを乗せると指先にじんわりとその温度が伝わってきそう。そんな些細な「温度感」が、過酷な環境でのチームの空気を和らげてくれたりするんですよね。
削ぎ落とした先にある「余白」をパッキングしよう


僕らはいつだって「少しでも軽く、少しでもコンパクトに」を求めて山へ向かいます。不要なものは持ち込まないのがULではある程度基本なのかな?とは思います。でも、その極限まで削ぎ落とした装備リストの中に、あえてこの11gのFACEHUGGER DISHを忍ばせる余裕を持つこと。
それは単に11g重くなるということじゃなくて、自分自身が「山での時間を楽しむ余裕」を忘れていないかを確認するための、ちょっとしたお守りみたいなものだと思っています。「お皿なんてなくても死にはしない。でも、これがあるから俺はもっと山を楽しめる」。そう笑って言い切れるスタイルって、すごく池尻ハイキングクラブの考え方?にマッチしていたのでした。
スタッキングの物理的な隙間を埋めて、同時にテント場での心の隙間も温かく埋めてくれる。11gのアルミに込められた、Nrucと栃木の町工場の本気の遊び心。
次のレースやハードなハイクのパッキングの最後、ぜひwildoの底にこいつを「フェイスハグ」させてみてください。テント場でおつまみを広げた瞬間、「ああ、やっぱり持ってきてよかったな」と、絶対にニヤリとしてしまうはずですから。
▼そんなNrucさんをはじめとした栃木のアウトドアショップの本気イベント「GENTLE HIKER STAND」が2026も開催されます!俺も出るので全員集合で!!



















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